ショートSF「胡蝶の夢なり近未来(レディプレの世界)」

ショートSF胡蝶の夢なり近未来(レディプレの世界)(タイムマシンの存在) タイムマシンは現実に存在している、と言っても信じない人が大半である。 ところがそれは大いなる誤解で、現代においてタイムトラベルは当たり前に出現しているのだそうだ。 実は…

ショートSF「人工知能と地球生命体」

ショートSF 人工知能と地球生命体(かろうじて生き残った旧人類) 星歴500年(旧西暦3000年)の夏の日、ここは地球の北半球にあるタイガ地帯。 何十万本もの巨大な針葉樹が、宙に挑むように林立していた。 幹の径は数十メートル、樹の高さはといえ…

ショートSF「思想販売会社」

ショートSF 思想販売会社 駅のホームにあるベンチで私は新聞をひろげていた。午後のこの時間、乗降客はとても少ない。私に近づいてきたその男は、黒い帽子に黒いコートで、さらに黒いカバンを手に持っていた。落ち着いた足取りで歩いてくる。陰気さととも…

ズボンの虫食い穴

ノボ・ショート「ズボンの虫食い穴」 晴天の元旦もまもなく暮れようとする頃、高台にある地元の温泉施設に来た信吉は、駐車場で車を降りられずにいた。 四十九日前に父が最期を迎えた公立病院を見下ろせる場所に、偶然車を駐めたからだった。 フロントガラス…

ショートSF「究極のパスワード」

ショートSF究極のパスワード 奥深き山の岩尾根で神々しき朝日を浴びながら、行者は数珠を指先で繰りながら呪文を唱えていた。 その目は針のような光線の痛みに耐え、まるで光を吸い込み尽くそうとするかのように朝日を凝視していた。 深山に分け入ってから…

ショートSF「クラウドの惑星」

ショートSFクラウドの惑星2080年、アフリカ大陸南端に近いナミブ砂漠で、地球、いや太陽系の歴史を大きく変える発見があった。この砂漠は約8千万年前に生まれた地球上最も古い砂漠と考えられている。「ナミブ」は主要民族であるサン人の言葉で「何も…

ショートSF「えすえふ鳥獣戯画」

ショートSFえすえふ鳥獣戯画 K氏はある日、「鳥獣戯画」の巻物を見ていた。突然、絵の中からガラガラ声が聞こえてきた。「おめえらはふざけてるよ」と。びっくりして、近くに音声ガイドでもあるのかと目を泳がせたが、何もない。再び絵に視線を戻すと、絵…

トランポ・ザ・ワールド

ノボノボ童話集トランポ・ザ・ワールド宇宙は多元並行時空体、つまりパラレル・ワールドである。2017年1月、アナザーワールドのアベリカにトランポ大統領が誕生した。アベリカ国民のみならず、世界中がショックを受けた。トランポはアベリカがまとって…

ショートSF「人工惑星ゴースト」

ショートSF人工惑星ゴースト西暦2006年、冥王星という天体が太陽系の惑星から突然除名された。大きさが惑星というには小さすぎるという理由だった。同じ年、冥王星を含む太陽系外縁天体無人探査機「ニューホライズンズ」がケープカナベラル空軍基地よ…

ショートSF「人工知能の帰還」

ショートSF人工知能の帰還2201年、月世界でモノリスが発見された。あの人工知能との最終決戦から百有余年、この漆黒の石碑のごとき物体は、遺伝子のコールドスリープという手段によって絶滅を免れたごくわずかの人類にとって、第二のロゼッタストーン…

ショートSF「人類史上最大の作戦」

ショートSF人類史上最大の作戦スカイネットが現実となったこの世界。わが子のごとき人工知能に、人類は絶滅寸前にまで追いつめられていた。スカイネットは人類に放射線を浴びせ、生殖能力を奪っていった。なにゆえこれほどまで親である人類を憎むのか?・…

三値のデジタル社会

ノボノボ童話集三値のデジタル社会 その時代の社会は、見かけはともかく人々の心はとても殺伐としていた。 どうも人間が作ったコンピューターに逆感化されたらしく、社会のあらゆることが「二値」の選択であったのだ。 「賛成か反対か」「合格か不合格か」「…

ショートSF「哀しき人工知能」

ショートSF哀しき人工知能技術的特異点は2050年に訪れた。人工知能(AI)がすべての分野で全人類の能力を超えたのだ。それを象徴するかのように「人工知能」との結婚も急速に増加した。それから先は半世紀以上前のSF映画のとおりである。・・・・…

新しい名前

ノボノボ童話集新しい名前名前がない人はいません。名無しの権兵衛にだって「ゴンベエ」という名前があります。人にも物にも名前があって、初めて社会に存在できるわけです。・・・・・・・・今の世がどうにも変なことだらけなのは、もしかしたら名前が変だ…

ショートSF「素晴らしき新人類」

ショートSF素晴らしき新人類人類は今、進化の過渡期を超えようとしている。私たちは進化に洗練を期待しがちだが、実はグロテスクに見えることのほうが多い。・・・・・・・・十数年前から新人類の予兆が頻繁に現れてきた。花粉症、食物アレルギーが劇的に…

ショートSF「超電池社会」

ショートSF超電池社会いかなる革命的な技術にもルーツがある。自動車が発明される前に馬車があり、インターネットが日常化する前に電話があった。これから話す革命的な技術のルーツは乾電池だった。ときは今から約三十年後の世界。もし過去から直流電気優…

窓ごしの二人

ノボノボ童話集窓ごしの二人遠慮がちでロマンチックな恋愛がまだ多かった頃の話である。画家をめざす彼は日々修行中の身であった。夜型の彼は毎日同じ時、同じ場所で遅い朝食をとる。それは近所にある小さな喫茶店。開店の10時になると決まって同じ窓際の席…

忍者犬チビ

ノボノボ童話集忍者犬チビ 懐かしい子供時代を一緒に過ごしたのは家族や友達だけではない。 小学校2年生の秋、そぼふる雨の日に「チビ」はわが家の庭先に迷い込んできた。 「スピッツ」と「チン」のあいの子のような「チビ」はそのままわが家に居着くことに…

夢を描く画家

ノボノボ童話集夢を描く画家 絵画は本当にすばらしいと思う。 一枚の良い絵は何百の良書に匹敵することだろうか。 一瞬にしてすべてを理解させる力、 絵画ほどその力がすぐれているものはない。・・・・・・・・ しかし、描く方の画家は一面不憫でもある。 …

ショートSF「驚きのタイムマシン」

ショートSF驚きのタイムマシン ここはディズニーランド。 クリスマスイブの今日に合わせて、 とてつもない新アトラクションがOPENした。 それは本物の「タイムマシン」だという。・・・・・・・・ その名を聞けばなつかしく思う人もいるだろう。 「ザ・タ…

人生相談の達人

ノボノボ童話集人生相談の達人 隣の町に「人生相談の達人」がいるという。 親しい友人数名が実際に相談したらしい。 その効果を聞かされた彼は疑った。 彼は理屈の通らないことが大嫌いな性格だった。 そこで達人の家の前で観察を始めることにした。・・・・…

ストーブ隊長

ノボノボ童話集ストーブ隊長 小学校四年生までのゆきおちゃんは、 学校があまり楽しくなかった。 それが五年生、六年生になってバラ色になった。 担任の先生がすばらしい先生だったからだ。・・・・・・・・ ゆきおちゃんは年中服を着替えない。 いつも竈(…

リンゴ箱のもみ殻

ノボノボ童話集リンゴ箱のもみ殻 もう半世紀以上も前のお話です。 僕は小学校四年生でした。 その頃の冬の寒さは、 今よりずっと厳しいものでした。 ゴム長靴の中に「わら」をしいて、 学校に通ったことを思い出します。・・・・・・・・ 学校の授業が終わる…

幸せのタイミング

ノボノボ童話集幸せのタイミング 彼の葬式が済んだ後、 親しかった友人たちは、だれもがこう語った。 「彼ほど幸運な奴はいなかった。 けれど、彼ほど不運な奴もいなかった」・・・・・・・・ 彼の幸運とは? 彼は億万長者になった。 彼はマドンナのハートを…

ショートSF「未来のお化粧」

ショートSF未来のお化粧「時空見聞録」より 到着した未来は百年後の日本。 さっそく私はこの時代の人になりきって、 あれこれ暮らしの観察を始めた。・・・・・・・・ 町全体の感じは私たちの時代と大差ない。 逆に緑が多く騒音も少ない。 小さくて瀟洒な…

ショートSF「未来から来た花嫁」

ショートSF未来から来た花嫁 未来と現在は帯のようにつながっている。 現在のほんの少しの角度変更が、 遠い未来にどれだけ大きい変化を与えるか、 延長線を引いてみればだれでもわかる。・・・・・・・・ 未来はとても困っていた。 このままでは未来が滅…

素晴らしき嘘

ノボノボ童話集素晴らしき嘘 はるか昔、嘘つきは重罪だった。 しかし、へそ曲がりはいつの世にも存在するようだ。 この三兄弟もその典型だった。・・・・・・・・ 三兄弟は権威や権力が大嫌い。 そこで「やっかいな嘘」をついて、 官憲たちの鼻を明かそうと…

沈黙は金

ノボノボ童話集沈黙は金 彼は若い頃から老け顔だった。 苦み走った印象もあって、 相手に存在感を感じさせる男だった。 俳優にでもなれたらよかったのだが、 オツムと運が足りなかった。・・・・・・・・ 彼は田舎に一人住まい。 日雇い仕事と、少しばかりの…

一番暖かい服

ノボノボ童話集一番暖かい服 ここはアメリカの大都会。 超高層ビルの谷間にはスラム街がある。 今年の冬は例年よりも厳しい寒さ。 それに不景気が追い打ちをかけて、 貧しき人々は涙さえ凍るようだった。・・・・・・・・ ダイナミックなこの都市は、 コント…

恐怖のミイラ

ノボノボ童話集恐怖のミイラ 小学2年のとき、わが家にテレビがやってきた。 「恐怖のミイラ」という番組とともに。・・・・・・・・ 月夜、人影なき街はずれ、 トレンチコートに山高帽の男の影。 肩をすぼめ、脚を引きずりながら、 静かに後ろを振りかえる…