夢を描く画家

ノボノボ童話集

夢を描く画家

 絵画は本当にすばらしいと思う。

 一枚の良い絵は何百の良書に匹敵することだろうか。

 一瞬にしてすべてを理解させる力、

 絵画ほどその力がすぐれているものはない。

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 しかし、描く方の画家は一面不憫でもある。

 彼らは創造の業を背負ったシーシュポスである。

 自ら描いているのではない。

 何かとてつもないものに描かされているのだ。

 これから登場する彼もその一人である。

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 ところが彼の天才とは実に奇妙なものである。 

 彼が天才であるゆえんは「描く絵」にあるのではない。

 「描く対象」にあるのだ。

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 彼が絵を描くのは夜中である。

 描く場所は依頼者の寝室である。

 しかもその枕元である。

 描くのは依頼者の「夢」である。

 そのキャンバスはなんと依頼者の脳なのである。

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 暗闇の中で彼は依頼者の夢を絵に描き、

 脳の中へ飾って去る。

 翌朝依頼者は、その絵を見て感動し了解する。

 そして迷うことなくわが道を進む。

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 画家の彼とはだれか?

 それは天界から遣わされた「希望の天使」である。

 依頼者はどのようにして画家をよぶのか?

 無意識に発する「意志」や「情熱」の波動が、

 天界に電波のごとく届くのである。

 こうして毎夜、天使である彼は、

 天界の指示に従い世界中をまわり、

 「新たな道を創る人」たちの夢を描いている。

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 天使とは「赤ちゃんエンジェル」だけではない。

 「希望の天使」である彼の姿は「中年のおじさん」である。

 そして彼は今、休む間もなく忙しい。

 なにせ現世では「失望」や「絶望」が増えつつある。

 天界も「大量難民」という二次災害を避けようと必死なのだ。