ノボノボ童話集

苦笑い「未来戯画集」

SF好きのK氏はこのところ毎晩変な夢を見るようになった。その夢はすべて未来の日常光景。おかしすぎて夢を見ながら笑ってしまう。それで夜中に目を覚ましてしまうことがある。せっかくだからと、K氏は夢を記録しておくことにした。 野田昌宏編集・著「S…

ズボンの虫食い穴

ノボ・ショート「ズボンの虫食い穴」 晴天の元旦もまもなく暮れようとする頃、高台にある地元の温泉施設に来た信吉は、駐車場で車を降りられずにいた。 四十九日前に父が最期を迎えた公立病院を見下ろせる場所に、偶然車を駐めたからだった。 フロントガラス…

ショートSF「えすえふ鳥獣戯画」

ショートSFえすえふ鳥獣戯画 K氏はある日、「鳥獣戯画」の巻物を見ていた。突然、絵の中からガラガラ声が聞こえてきた。「おめえらはふざけてるよ」と。びっくりして、近くに音声ガイドでもあるのかと目を泳がせたが、何もない。再び絵に視線を戻すと、絵…

トランポ・ザ・ワールド

ノボノボ童話集トランポ・ザ・ワールド宇宙は多元並行時空体、つまりパラレル・ワールドである。2017年1月、アナザーワールドのアベリカにトランポ大統領が誕生した。アベリカ国民のみならず、世界中がショックを受けた。トランポはアベリカがまとって…

三値のデジタル社会

ノボノボ童話集三値のデジタル社会 その時代の社会は、見かけはともかく人々の心はとても殺伐としていた。 どうも人間が作ったコンピューターに逆感化されたらしく、社会のあらゆることが「二値」の選択であったのだ。 「賛成か反対か」「合格か不合格か」「…

新しい名前

ノボノボ童話集新しい名前名前がない人はいません。名無しの権兵衛にだって「ゴンベエ」という名前があります。人にも物にも名前があって、初めて社会に存在できるわけです。・・・・・・・・今の世がどうにも変なことだらけなのは、もしかしたら名前が変だ…

ショートSF「超電池社会」

ショートSF超電池社会いかなる革命的な技術にもルーツがある。自動車が発明される前に馬車があり、インターネットが日常化する前に電話があった。これから話す革命的な技術のルーツは乾電池だった。ときは今から約三十年後の世界。もし過去から直流電気優…

窓ごしの二人

ノボノボ童話集窓ごしの二人遠慮がちでロマンチックな恋愛がまだ多かった頃の話である。画家をめざす彼は日々修行中の身であった。夜型の彼は毎日同じ時、同じ場所で遅い朝食をとる。それは近所にある小さな喫茶店。開店の10時になると決まって同じ窓際の席…

忍者犬チビ

ノボノボ童話集忍者犬チビ 懐かしい子供時代を一緒に過ごしたのは家族や友達だけではない。 小学校2年生の秋、そぼふる雨の日に「チビ」はわが家の庭先に迷い込んできた。 「スピッツ」と「チン」のあいの子のような「チビ」はそのままわが家に居着くことに…

夢を描く画家

ノボノボ童話集夢を描く画家 絵画は本当にすばらしいと思う。 一枚の良い絵は何百の良書に匹敵することだろうか。 一瞬にしてすべてを理解させる力、 絵画ほどその力がすぐれているものはない。・・・・・・・・ しかし、描く方の画家は一面不憫でもある。 …

ショートSF「驚きのタイムマシン」

ショートSF驚きのタイムマシン ここはディズニーランド。 クリスマスイブの今日に合わせて、 とてつもない新アトラクションがOPENした。 それは本物の「タイムマシン」だという。・・・・・・・・ その名を聞けばなつかしく思う人もいるだろう。 「ザ・タ…

人生相談の達人

ノボノボ童話集人生相談の達人 隣の町に「人生相談の達人」がいるという。 親しい友人数名が実際に相談したらしい。 その効果を聞かされた彼は疑った。 彼は理屈の通らないことが大嫌いな性格だった。 そこで達人の家の前で観察を始めることにした。・・・・…

ストーブ隊長

ノボノボ童話集ストーブ隊長 小学校四年生までのゆきおちゃんは、 学校があまり楽しくなかった。 それが五年生、六年生になってバラ色になった。 担任の先生がすばらしい先生だったからだ。・・・・・・・・ ゆきおちゃんは年中服を着替えない。 いつも竈(…

リンゴ箱のもみ殻

ノボノボ童話集リンゴ箱のもみ殻 もう半世紀以上も前のお話です。 僕は小学校四年生でした。 その頃の冬の寒さは、 今よりずっと厳しいものでした。 ゴム長靴の中に「わら」をしいて、 学校に通ったことを思い出します。・・・・・・・・ 学校の授業が終わる…

幸せのタイミング

ノボノボ童話集幸せのタイミング 彼の葬式が済んだ後、 親しかった友人たちは、だれもがこう語った。 「彼ほど幸運な奴はいなかった。 けれど、彼ほど不運な奴もいなかった」・・・・・・・・ 彼の幸運とは? 彼は億万長者になった。 彼はマドンナのハートを…

ショートSF「未来のお化粧」

ショートSF未来のお化粧「時空見聞録」より 到着した未来は百年後の日本。 さっそく私はこの時代の人になりきって、 あれこれ暮らしの観察を始めた。・・・・・・・・ 町全体の感じは私たちの時代と大差ない。 逆に緑が多く騒音も少ない。 小さくて瀟洒な…

ショートSF「未来から来た花嫁」

ショートSF未来から来た花嫁 未来と現在は帯のようにつながっている。 現在のほんの少しの角度変更が、 遠い未来にどれだけ大きい変化を与えるか、 延長線を引いてみればだれでもわかる。・・・・・・・・ 未来はとても困っていた。 このままでは未来が滅…

素晴らしき嘘

ノボノボ童話集素晴らしき嘘 はるか昔、嘘つきは重罪だった。 しかし、へそ曲がりはいつの世にも存在するようだ。 この三兄弟もその典型だった。・・・・・・・・ 三兄弟は権威や権力が大嫌い。 そこで「やっかいな嘘」をついて、 官憲たちの鼻を明かそうと…

沈黙は金

ノボノボ童話集沈黙は金 彼は若い頃から老け顔だった。 苦み走った印象もあって、 相手に存在感を感じさせる男だった。 俳優にでもなれたらよかったのだが、 オツムと運が足りなかった。・・・・・・・・ 彼は田舎に一人住まい。 日雇い仕事と、少しばかりの…

一番暖かい服

ノボノボ童話集一番暖かい服 ここはアメリカの大都会。 超高層ビルの谷間にはスラム街がある。 今年の冬は例年よりも厳しい寒さ。 それに不景気が追い打ちをかけて、 貧しき人々は涙さえ凍るようだった。・・・・・・・・ ダイナミックなこの都市は、 コント…

恐怖のミイラ

ノボノボ童話集恐怖のミイラ 小学2年のとき、わが家にテレビがやってきた。 「恐怖のミイラ」という番組とともに。・・・・・・・・ 月夜、人影なき街はずれ、 トレンチコートに山高帽の男の影。 肩をすぼめ、脚を引きずりながら、 静かに後ろを振りかえる…

ショートSF「車のない未来」

ショートSF車のない未来 私には、実はタイムトラベラーの友人がいる。 先日、彼にタイムマシンを借りた。 行った先は30年後のジャパン。 その世界は、浮いていた! 文字どおりに。・・・・・・・・ 私の住む現代は交通事故が絶えない。 だから、原発反対…

サンタの過去

ノボノボ童話集サンタの過去 サンタクロースには多くの伝説がある。 この話はその一つだ。 現代にまでつながるクリスマスの愛すべき慣習は、彼の暗い過去があってこそだった、というのだ。・・・・・・・・ 実は、サンタは昔泥棒だった。 寒さにふるえる貧し…

美しき誤解

ノボノボ童話集美しき誤解 まもなくクリスマスがやってくる。 新年になれば初詣。 イスラム教だと、毎年断食ラマダン。 あらゆる宗教に、年に一回以上の儀式というか掟がある。 毎日という宗教もある。 もう誰も知る人はいないのだが、 実は、これって神様、…

本屋の秘密

ノボノボ童話集本屋の秘密 もう本が売れない時代となってしまった。 ネットは脳みその咀嚼能力をとても弱めてしまう。 その三連鎖がこれである。 「本を読まない」「読んでも理解しない」「理解してもすぐ忘れる」・・・・・・・・ そんな本屋受難の時代、と…

思いがけない幸せ

ノボノボ童話集思いがけない幸せ 彼はだれよりも幸せのはずだった。 由緒ある家柄、裕福な両親、何不自由なき幼年時代。 秀才で、運動神経もルックスも性格も良い彼は、 同級生のあこがれの的だった。・・・・・・・・ そんな彼の進む道は、自ずと決められて…

宇宙への井戸

ショートSF宇宙への井戸 彼が不眠症であるのには理由がある。 「夢」の秘密を解きあかしたかったのだ。 眠りに落ちるその一瞬、いったいどこへ落ちるのだろう? なぜ夢はハチャメチャなのだろう? どうして夢をよく覚えていないのだろう? とはいえ彼も人…

アキレスと亀

ノボノボ童話集アキレスと亀 彼は天才科学者である。 世間の煩わしさから遠ざかろうとして、 いまだ文明の及ばぬ南の島で研究を続けることにした。・・・・・・・・ 水平線に沈む夕日の美しさは、彼の心をとりこにした。 それとともに、自然に対する挑戦の気…

究極の薬

ノボノボ童話集究極の薬 赤い鳥小鳥 なぜなぜ赤い 赤い実を食べた♪ 童謡の一節が、突然彼の頭に入ってきた。 それは彼にとって、神のお告げというべきものだった。・・・・・・・・ 彼はある病院の付属薬局に勤める薬剤師だ。 日々患者に同じような薬を出し…

森の言葉

ノボノボ童話集森の言葉 初冬のある日、車窓を見ながら娘は聞いた。 「おとうさん、どうして木は寒い冬に服を脱ぐの?」 「う〜〜ん、それは木が暑がりだからさ」 初夏のある日、車窓を見ながら、また娘は聞いた。 「おとうさん、どうして木は暑い夏に服を着…