素晴らしき嘘

ノボノボ童話集

素晴らしき嘘

 はるか昔、嘘つきは重罪だった。

 しかし、へそ曲がりはいつの世にも存在するようだ。

 この三兄弟もその典型だった。

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 三兄弟は権威や権力が大嫌い。

 そこで「やっかいな嘘」をついて、

 官憲たちの鼻を明かそうと決めた。

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 長男は教師である。

 彼は不真面目で成績の悪い子に嘘を語った。

 「君は本当は優秀なんだよ、頑張れ!」と。

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 次男は運動部の監督である。

 彼はのろまで運動神経の鈍い子に嘘を語った。

 「君はきっと一番になれるよ、頑張れ!」と。

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 三男は医者である。

 彼は重病の患者に嘘を語った。

 「この薬が必ず効きますよ、頑張りましょう!」

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 ところが嘘をついたはずなのに、

 出来の悪い生徒は成績が上がり、

 運動神経の鈍い子はマラソンで優勝し、

 瀕死の患者は奇跡的に回復した。

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 三兄弟でさえ面食らうほどの逆効果だった。

 官憲も「罰していいものやら?」と迷った。

 ついに裁判が開かれた。

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 裁判長は、苦肉の策でこんな裁きをくだした。

 「三兄弟の嘘は素晴らしき嘘である。

 だから嘘であって嘘ではないのである。

 本日よりこの言葉を辞書に加えることにする」

 そしておもむろに巻紙を開いて皆に見せた。

 そこには「励まし」と書かれていた。

 三兄弟は「ヤッタ〜!」とこぶしを挙げた。

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 その時代からとても長い時代を経た現代、

 嘘はさらに進化をとげ、

 パワフルな言葉が辞書に加わった。

 「想定外」という言葉である。

 この言葉により、ほとんどの嘘が、

 嘘でなくなってしまったのである。