ショートSF

SF画廊「ガス・ステーション」

エドワード・ホッパー「ガス・ステーション」(1940) (夕暮れの店じまい) 夕方5時、この季節だとあと一時間もすれば日が暮れる。マシューは家業である給油所の店じまいをしている。 ホースに残ったガソリンを丁寧にタンクに戻した後、きつく締められ…

SF画廊「ニューヨークの映画館」

エドワード・ホッパー「ニューヨークの映画館」(1939) (ニューヨーク・ムービー) 濃紺に赤いストライプがきいた粋な制服を着たケイトは、上映が始まり仕事が一段落したところだ。階段そばのロビーで、右手を頬に当てながら目をつむり、もの思いにふ…

SF画廊「ナイトホークス」

エドワード・ホッパー「ナイトホークス」(1942) (フィリーズバー) 1920年9月下旬のシカゴ、まだ夜の10時である。オフィスが多い東三番街にあるフィリーズバー。このへんでは玄人好みの店として人気があった。渋いやつらがワンショットのウイ…

SF画廊「日ざしを浴びる人々」

エドワード・ホッパー「日ざしを浴びる人々」(1960) (日ざしを浴びる人々) 1944年の秋、画家エドワード・ホッパーは、ネバダ州ロスアラモスにいた。マンハッタン計画に従事する研究者たちを慰安するために彼の個展が開催されたからだ。 この数年…

苦笑い「未来戯画集」

SF好きのK氏はこのところ毎晩変な夢を見るようになった。その夢はすべて未来の日常光景。おかしすぎて夢を見ながら笑ってしまう。それで夜中に目を覚ましてしまうことがある。せっかくだからと、K氏は夢を記録しておくことにした。 野田昌宏編集・著「S…

未来からの手紙「効率化の果てにある未来」

「さてと、、、今日は届いているかな?」私の朝は玄関前のポストを確認することから始まる。たぶん多くの人と同じように。しかし、ポストの中に確認したい物は、私以外の人とはまったく異なる。それは未来から届く手紙だから。 →この話の経緯 ・・・・・・・…

愛しき宇宙人シッダールタ

v (最終講義) 階段教室の教壇に立ったナカムラ教授は、はずした眼鏡をハンカチで拭き、かけ直した後、演台に両手をついた。一呼吸置いてから、聴衆の学生や教職員一人一人の顔をゆっくりと見回した。 ナカムラ教授は東洋思想の世界的権威で、クラーク記念…

未来からの手紙 ”コンビニ・ルネサンス”

「さてと、、、今日は届いているかな?」私の朝は玄関前のポストを確認することから始まる。たぶん多くの人と同じように。しかし、ポストの中に確認したい物は、私以外の人とはまったく異なる。それは未来から届く手紙だから。 →この話の経緯 ・・・・・・・…

Godという名のエイリアン

ショートSF「Godという名のエイリアン」 2020年6月、アメリカ国防総省は、過去十数年にわたり米軍パイロットが撮影記録した未確認飛行物体の映像を複数公開した。さらにそれが未だに説明不可能な物体または現象であるということもつけ加えて。なに…

すばらしき地球Ⅱ

ショートSF「すばらしき地球Ⅱ」 2084年、多元宇宙に存在する地球Ⅱのお話である。 この星では、半世紀も前、ベムウイルスという新種のウイルスが全世界に蔓延し、多数の死者を出した。変異が激しくワクチンも薬も追いつかず、5年間にわたり世界はモグ…

冬眠する人類

(想定外の世界大戦) 21世紀に暮らす人類のほとんどはこう思っていた。世界大戦とは国対国、人と人とが殺し合う戦争である。過去もそうであったし今後もそのはずであると。 まさか人類対エイリアンの世界大戦が始まるとは誰もが予想していなかった。その…

未来からの手紙 ”ヘルメット・ワールド”

「さてと、、、今日は届いているかな?」私の朝は玄関前のポストを確認することから始まる。たぶん多くの人と同じように。しかし、ポストの中に確認したい物は、私以外の人とはまったく異なる。それは未来から届く手紙だから。 →この話の経緯 ・・・・・・・…

未来からの手紙 ”新しい幸福”

「さてと、、、今日は届いているかな?」私の朝は玄関前のポストを確認することから始まる。たぶん多くの人と同じように。しかし、ポストの中に確認したい物は、私以外の人とはまったく異なる。それは未来から届く手紙だから。 どんな人でも自分だけの秘密を…

大晦日の宇宙船団

(甲板の巫女たち) シャカシャカシャカ シャラシャラシャラ・・・ シャカシャカシャカ シャラシャラシャラ・・・・宇宙船団の巫女たちは甲板を二手に分かれて進む。一方は船首へ、もう一方は船尾へと。背筋を伸ばし、すり足でゆっくりゆっくりと歩む。 白衣…

骨寺村の秘密

(ハーンの隠された旅) ラフカディオ・ハーンは、その生涯にたった一度だけ東北に来たことがある。寒さが苦手な彼だったが、雪が降るにはまだ早い今から120年前の1900年10月、ある重要な秘密を調べるために、開通したばかりの東北本線の列車に乗り…

侍イソガイ・タケツラの伝説

宮城県旧歌津町「田束山(たつがねさん)」経塚群 ショートSF 侍イソガイ・タケツラの伝説 (戦いの行方) 今から五百年も前、紀元四千年頃の話である。人類軍ユーラシア方面隊に、知略と武勇に優れたイソガイ・タケツラという将校がいた。歴史上かつてな…

エイリアン・プラネット

ショートSF エイリアン・プラネット 西暦2119年、宇宙歴史天文学者ブライアン・メイヤーは、地球軌道を廻る深宇宙探査ハッブル第三望遠鏡の画像を解析していた。9月30日、彼はくじら座M77銀河周縁のごく一部に微少な渦が特異的に生じていることを…

宇宙伝説「DAMIAN永遠の命」

ショートSF 宇宙伝説「DAMIAN永遠の命」 これは天の川銀河団辺境にあるN13-5太陽系第三惑星テラに伝わる伝説である。テラにはイエロームーンとシルバームーンという二つの衛星の存在が確認されているが、両者の組成は驚くほど異なっている。こ…

安藤ロイド氏の数奇な人生

ショートSF 安藤ロイド氏の数奇な人生 (ウラジーミルとナツコ)チューリングテストを初めて突破した人造人間が、安藤ロイド氏であったことを知る人はほとんどいない。それどころか、彼が第一の人生を終えた2065年に至るまで、彼が「人間以外の物」で…

未来列車アインシュタイン号 第2話

2015年5月に行った北上山地「種山が原」 ショートSF 未来列車アインシュタイン号 第2話 (前回までのあらすじ)時は2050年、人工ブラックホール生成を目的とした世界最大の加速器が北上山地の地下に建設された。その資金を確保するため地上には「銀河…

未来列車アインシュタイン号 第1話

2015年5月に行った北上山地「種山が原」 ショートSF 未来列車アインシュタイン号 第1話 2050年夏、新しいディズニー・ワールド「銀河高原ワープランド」が、東北地方の北上山地に開園した。 なぜ北上山地という僻地に?と誰もが思うのだが、実はこの…

ショートSF 「ファーブル・プロジェクト」

ショートSF ファーブル・プロジェクト 1.ファーブル・プロジェクト 改良技術だけに長けた「エンジニア国家日本」で、このような奇抜な研究が国家プロジェクトとして密かに行われていたとは、いったい誰が想像しえただろう。 私がその秘密計画を知ること…

ショートSF「2100年の元旦」

ショートSF2100年の元旦 2100年元旦、今年もなんとか新年のお日様をおがむことができ、感無量である。 22世紀最初の日にあたり、20世紀後半から今日までの社会変化をできるだけ客観的に振り返り、日記に記しておこうと思う。・・・・・・・・…

ショートSF「青紫のクリスタル」

ショートSF青紫のクリスタル ここに一枚の紙がある。 そこにはある模様が黒一色で塗られている。 人の形に見える。 しかし、白地に何かを見る人は誰もいない。 われわれには、「黒」の「形」は認識できても、「白」の「場」は認識できないのだ。・・・・・…

ショートSF「 守られた約束」

ショートSF守られた約束 明治の中頃、ラフカディオ・ハーンは妻小泉節子の献身的な助力を得て、日本各地に残る怪談、奇談を収集した。 彼はそれらを英語で再編集し新たな作品に仕上げたが、その後日本語に逆翻訳され日本の古典となり今日にいたる。 実はそ…

ショートSF「鮫人(さめびと)の秘密」

ショートSF鮫人(さめびと)の秘密 人間ほど愚かしい生き物はいない。 なぜなら、自分たちが為したように他の生物も為せるのでは?などと誰も意識したことがないからだ。 人間は宇宙から見れば無限小の存在である。 にもかかわらず、銀河系はもとより深宇…

ショートSF「青柳と妹のはなし」

ショートSF青柳と妹のはなし K氏は52歳、高校で生物の教師をしながら、実は長年「不老不死」を研究していた。 「不老不死」といっても、秦の始皇帝が探させたという霊薬を見つけるようなことではない。 「生命の循環」の研究とでも言ったほうが近いかも…

ショートSF「MiminashiーHo1」

ショートSFMiminashiーHo1(耳なし芳一) 700年あまり昔、地球のあらゆる地域で、旧来のホモサピエンス対機械化した新人類ホモサイエンスの凄絶な戦いが行われていた。 当初AIと結合したホモサイエンスが優勢で、古語的に表現すれば「我が…

ショートSF「宇宙の雪おんな」

ショートSF宇宙の雪おんな ゼータ第二星系のテーラという惑星に、モースとヤーコブという二人の航宙士がいた。ヤーコブは200才を超えた老人であった。モースはまだ42才という若者である。毎週二人はゼータ第二星系から5パーセク離れたブラックホール…

ショートSF「笑う人工知能」

ショートSF笑う人工知能(シンギュラリティーの真の意義) レイ・カーツワイルの予測は正しかった。 2045年の春、シンギュラリティーは確かにやってきた。 その頃地球は100億の人口となっていたが、10万円ほどで買えるコンピューター(人工知能)…