ストーブ隊長

ノボノボ童話集

ストーブ隊長

 小学校四年生までのゆきおちゃんは、

 学校があまり楽しくなかった。

 それが五年生、六年生になってバラ色になった。
 
 担任の先生がすばらしい先生だったからだ。

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 ゆきおちゃんは年中服を着替えない。

 いつも竈(かまど)のすすけた臭いがする。

 髪も洗わない。

 遠い南の島の住人みたいな顔をしていて、

 笑顔がとても人なつっこい。

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 字が読めないゆきおちゃんは、

 男の子たちのいじられ役だった。

 女の子たちのほうは、

 そんなゆきおちゃんを、

 悪童どもからかばっていた。

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 ゆきおちゃんの転機は

 亜炭ストーブの季節とともに訪れた。

 担任の先生はクラスのみなにこう宣言した。

 「今日からゆきおくんをストーブ隊長に任命する」

 教室にある亜炭ストーブの火力は、

 ゆきおちゃんに委ねられることになったのだ。

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 ゆきおちゃんの席はストーブのすぐそば。

 授業中でも関係なく亜炭をくべている。

 先生はときどき、ゆきおちゃんに指令を出す。

 「ゆきお、だれかさぼってないか見てきてくれ」

 先生の絶大なる信頼を得て、

 まるで保安官助手のように、

 教室の中をパトロールするゆきおちゃん。

 彼をからかう悪童はもういなくなった。

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 あれから何十年たっても、

 かつての同級生たちは会うたびに、

 この懐かしい話で盛り上がるのだった。

 ゆきおちゃんは皆の心にひとしく、

 大切な写真を残してくれたようだ。