サンタの過去

ノボノボ童話集

サンタの過去

 サンタクロースには多くの伝説がある。

 この話はその一つだ。 

 現代にまでつながるクリスマスの愛すべき慣習は、彼の暗い過去があってこそだった、というのだ。

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 実は、サンタは昔泥棒だった。

 寒さにふるえる貧しき子供時代のサンタは、人のものを盗まずには生きていけなかった。

 はじめは食べ物だけだったが、しだいに、なんでも手当たり次第に盗むようになっていった。

 彼は決して根っからの悪党ではないのだが、「習い、性(せい)となる」のであった。

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 ある日、彼は生物進化のごとき工夫をはじめた。

 明日のために、盗品を保存しておくようにしたのだ。

 村はずれにある寂れた無人の教会が、彼の倉庫だった。

 そこには、食料や銀器などのほかに玩具がたくさんあった。

 小さい頃、玩具などに縁のなかった彼は、子供時代を取り戻すかのように、「おもちゃ」や「人形」など子供が大好きなものを盗みまくっていたのだった。

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 彼が教会を盗品倉庫にしてから数年後、その寂れた教会に一人のマリア様のごとき尼僧と、よるべを失った10人ほどの孤児が住みつくこととなった。

 サンタはいっとき苦々しく思ったが、自らの過去を思いだし、盗品を彼らの目に付かない地下室へと密かに移動した。

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 ある年の12月24日の夜。

 外はしんしんと雪が降り積もる。

 寝静まった子供たちを見回る尼僧。

 偶然、地下への入り口を見つけ、入った。

 そこにあったのは、「おもちゃ」や「人形」の数々。

 「主の恵みにちがいない!」

 尼僧は十字を切った。

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 その時偶然、サンタも外にいた。

 教会の倉庫へ盗品を置きに来たのだ。

 赤い防寒着を着ていたサンタは、大雪で頭も口もとも白くなっていた。

 盗品を積んだそりを牽いていたのは、トナカイではなくてロバだった。

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 尼僧は彼を見た。

 気付いたサンタはそりに乗って逃げた。

 尼僧はそりに乗って去る天使に向かって、再び感謝の十字を切った。

 それから、人数分の玩具を運び始めた。

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 翌朝、目が覚めた孤児たちは歓声をあげた。

 一人ひとりの枕元にプレゼントが置かれていたのだ。

 尼僧は子どもたちにこう話す。

 「クリスマスという日を選んで、神様は私たちを祝福してくれました。なんという奇跡でしょう。皆さん感謝の気持ちを込めてお祈りしましょう。赤い服を着た白ひげの天使に」

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 サンタはその様子を窓の外から見ていた。

 尼僧がマリア様に思えた。

 子供時代に満たされるべきであった愛情が、奔流のように、たちまち彼の心に満ちあふれた。

 そして、人に感謝される喜びを初めて経験した。

 彼の心は大きく変わった。

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 サンタはその後泥棒をやめた。

 まっとうな仕事で、一生懸命働くようになった。

 しかし、おもちゃや人形はそれまで以上にため続けている。

 新たな秘密の倉庫へ。

 そして毎年クリスマスイブの夜、赤い服に白いひげの姿で、楽しい夢を見ているに違いない子供たちの枕元に、プレゼントを置いて回ることにした。

 子供たちの喜びが、彼自身の喜びになったのだ。

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 やがて、彼の行動に共感する人が増えていった。

 彼らはサンタそっくりの服装をした。

 いつしかロバはトナカイに替わった。

 数百年後、それは全世界規模になった。

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 神様はほんとうに奇跡を起こすらしい。

 しかし、奇跡というものの起こり方を知る人は少ない。

 それが、最初たった一人の心に起こるのだということを。