未来からの手紙 ”ヘルメット・ワールド”

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 「さてと、、、今日は届いているかな?」私の朝は玄関前のポストを確認することから始まる。たぶん多くの人と同じように。しかし、ポストの中に確認したい物は、私以外の人とはまったく異なる。それは未来から届く手紙だから。

  →この話の経緯

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 ノボさん、お元気ですか?未来から今日もまたお便りします。2020年の3月初め、私はまたもタイムスリップしてしまいました。時空の穴は突然開くので、旅立ちの時はとてもあわてます。それでもコロナウィルスによるパンデミックが現実味を帯びていたときなので、逃走気分も少しあり、時空移動に思い切って身をゆだねました。

 

 どうやらたどり着いた未来は元いた時代から50年後の世界のようです。地球も人類もまだ無事でホッとしました。しかし、宇宙は多元多世界のようですから、この未来が私たちの未来とは限りません。それに、私自身、元いた2020年3月初めにまた戻る運命ですし、未来にいてもコロナウイルスの行方はノボさんと同じく心配です。

 

 ところで紙の文化というのはすごい!50年後の未来においても、紙の本は健在なのです。もちろん図書館だって昔と同じようにあります。郵便局もポストも少ないながらもまだあります。それで、またそちらへ手紙を投函したわけです。自分が元いた場所へ戻るように、未来で投函した手紙も、元いた場所の住所に配達されることを知ってますから。

 

 さて、ここは近未来の日本です。街を歩く人々のファッションはとても変わりました。多くの人が、頭部全体を薄い透明プラスチックで覆っているのです。たとえは古くて適切ではありませんが、まるで金魚鉢をかぶっているように見えます。未来のヘルメットですね。このヘルメットには、口元に呼吸用の5センチくらいの円形のフィルターが埋め込まれています。呼吸だけでなくマイクやスピーカーの役目も果たしています。

 

 私は一目見て「やっぱりな~~」と合点しました。元いた時代はコロナやら花粉症やらで、外に出るときはマスクが当たり前になっていました。それでもマスクでは完全に防ぎきれないし、声もとおりにくい、呼吸もしづらい、顔も見えない、清潔でもない、というように欠点だらけでした。いつかマスクも進化せざるを得ないだろうなと思っていたからです。


 けっこう辛口の私ですが、このヘルメットはすぐれものと認めざるを得ません。ラップのような薄い素材なのに、とても丈夫です。かぶった後、ワンタッチで圧力が上がり、球形のヘルメットになるのです。外すときもワンタッチで圧力が下がり、ヘルメットは収縮します。同時に首の部分が逆に拡がり、すぐに脱げるようになるのです。電子レンジのような機械に入れて消毒し、何度でも使えます。

 

 このヘルメットは紫外線や乾燥などからも肌を守ります。製造元が懐かしい名前の化粧品会社であるのもうなづけます。太古の時代、人類は衣をまとうようになりました。同じような変化が出現したのかもしれません。液晶構造のヘルメットを使っている若い人も多いようです。まるで別人のような顔を映したり、さまざまな表情をVRでつくれるので新たな化粧となっているようです。お洒落心ほど強いものはないですね~~。

 

 家屋においても、高機能フィルターの換気システムによる密閉構造が基本となりました。バーチャルテクノロジーの進化で、窓を開ければ人工的な自然の風景が広がり、人工の涼風が顔をなぜます。さらに木々や花々の香りまでもしてきます。花粉症の悩みはおおかた解決した感があります。元いた時代でも花粉症はじめアレルギーが年々増えていましたが、未来のこの時代は、出生時から強いアレルギーを持つ子が9割以上にもなっています。花粉症などのアレルギーは命にさえ関わるような大問題なのです。

 

 ところが新たな問題がいくつか起きているようです。それはペットです。野生を失い愛玩動物となりはてた犬や猫たちは、この時代、人間にとってますますなくてはならない存在になっています。そのペットたちまでアレルギーになっているのです。そうでないものは、部屋に花粉や細菌、ウィルスなどを持ち込む感染源となってしまいます。そのため、ペット用のヘルメットまで作られ当たり前のように使われています。ロボットペットもだいぶ進化したのですが、ヘルメットを付けさせてでも本物のペットと暮らしたいという人は多いようです。

 

 もう一つの問題は社会の分断ということです。生まれ、思想、貧富の差による分断ではありません。人工的世界に生きるいわゆる「都会人」と、野生に生きるいわゆる「地方人」との対立が激化してきたのです。なぜなら都会人は地方人の持つ昔ながらの菌やウィルスなどに対して抵抗力が弱まってきたからです。都会人は地方人からの感染を極度に恐れているのです。このままでは、都会人は地方人をゾンビと思い、地方人は都会人をミュータントと思い、互いに忌み嫌うようになる可能性も高いように思われます。

 

 小さな対立が全世界で発生していますが、まだ大規模な対立には至っていないようです。しかし、あと半世紀もしたら、それぞれが別な種族として別な世界をつくって共存していくか、あるいは人工対野生の熾烈な戦いが起こるか、そのどちらかしかないと、本気で思ってしまいます。昔、北米、南米、豪州で先住民を殺戮した西洋人のことを想像してしまいます。

 

 しかし、自然回帰に惹かれる地方人というのは、教養や知性が高い人たちがかなり多いので、もし戦いになったらその行方はまったく予想がつきません。そうなったら、都会人は放射能を使うかもしれません。なぜなら彼らのヘルメットやその延長であるドーム都市は放射線防御ができるからです。かたや地方人は、自分たちには免疫のある細菌やウィルスを使うかもしれません。これは恐ろしい未来予想図です。しかし、そのような破局を経て人類は新しい未来をつくっていくかもしれないのです。元の世界で、コロナ騒動の渦中にいたのでそう思うのかも知れませんね。

 

 時空移動は行き先がわかりません。次の移動はもっと先の未来へ飛ばされるかも知れません。なにせ回を重ねる毎に遠い未来へ運ばれていますから。その未来はいったいどうなっているのか。。。私たちは、AIやVRやアンドロイドだけが未来をつくる要因になるだろうと思い込んでいます。しかし、もしかしたら別な要因が想定外の未来をつくっているやもしれません。

 

 それは宇宙や自然の変化であったり、ウィルスであったり、動植物であったり、まさかと思えることかもしれません。好奇心が騒ぐと同時に怖い気もします。きっと薄目を開けてこっそり覗くことになるでしょう。その未来では果たして手紙は可能かどうかわかりませんが、きっと過去への連絡方法は何かあるでしょう。

 

 ということで、これで今日の手紙はおわりにします。まもなく私は2020年3月初めの世界に戻されるでしょう。コロナがやはり心配です。。。まだ野生人の世界に生きる私たちは、お互い免疫を高めてコロナに負けないようにしましょう。それではまた!

 今日の手紙を読みながら、私は意気消沈してしまった。毎日のコロナ騒動をテレビで見ていると、彼の飛んだ未来は、まぎれもなく私たちの未来であるに相違ないと思えれからである。 多元宇宙とはいえ、そういう偶然は起こりうるのだろうと思い、ため息をついた。。。